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【欲しい】男と女の欲望の物語 ~『欲しい』ものは何?

 

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読書大好きゴリゴリ、Kadaです。

 

本屋さんにて思わずジャケ買いしました。夏限定カバーの 永井するみ『欲しい』

登場人物たちそれぞれの欲望が交錯しながら、物語が進んでいく様が面白い!

また永井氏の美しい心情描写は流石。登場人物たちに共感しながら読み進めました。

 

 

欲しい (集英社文庫)

欲しい (集英社文庫)

 

 

 

あらすじ

人材派遣会社を営む紀ノ川由希子は42歳、独身。恋人には妻子がいる。愛しているのに、会えば会うほど飢えていく――そんな心の隙間を埋めるため、逢瀬の後はいつも派遣ホストを呼んでいた。ある日、恋人が不慮の死を遂げた。若い女をストーキングした挙げ句、歩道橋から転落したという。彼がストーカー? 不審に思う由希子は、真相を探り始める。男と女の欲望を精緻に描く、傑作長編ミステリー。

amazon 内容紹介より

 

本書には3人の主人公がおり、それぞれの視点で物語が進行します。

 

紀ノ川由希子は、人材派遣会社「ミネルバ」を経営する社長です。

30代でMBAを取得し、35歳で起業。その後、順調に経営を行い、社会的にも金銭的にも恵まれた地位にいる女性です。

そんな彼女には恋人の久原がいます。由希子は独身ですが、久原は妻子持ち。つまり不倫の関係です。

一見非の打ち所がない彼女ですが、久原からの愛だけはどうしても手に入れることができません。由希子は、久原との逢瀬の後に虚しさを感じ、いつも派遣ホストのテルを呼び出していました。

 

二人目の主人公、テルはお金を貰って女性の元へ向かう派遣ホストです。

年齢は34歳。ホストとして活躍できる年齢を超えたと感じている彼は、現在所属している事務所を退職し、経営する側になること、つまり自分の店を構えることが夢です。

そのためにホストとして仕事に熱心に取り組み、女性の話を丁寧に聞き、気持ちを添わせることで女性からの支持を得ています。

 

そして、三人目の主人公がありさです。

ありさは由希子が経営する人材派遣会社「ミネルバ」の登録スタッフであり、久原が取締役を務める企業の派遣社員として働いていました。

ありさはシングルマザーであり、現在は夫と離婚して暮らしています。

しかし、離婚した元夫が突然現れ、金の無心をするためにありさの職場に押し掛けるようになります。

 

ありさの境遇を心配した由希子は、彼女に励ましの言葉をかけ、様々な支援をしました。その一方で、ありさの事を恋人の久原に相談していました。

しかし数日後、久原がありさに突き飛ばされ、階段から落ちて亡くなったとの知らせが入ります。しかも、久原はありさストーカーだったというのです。

 

悲しみに暮れる由希子。しかし、久原の死を不審に思った彼女は、彼の死の真相を探るー

というストーリーです。

 

 

欲望を精緻に描いたストーリー

この小説の素晴らしい点は、心理描写が美しく、思わず共感してしまうところだと思います。永井氏は、登場人物たちの欲望を書くのが本当に上手い!

 

由希子テルありさの三人の視点が交代しながらストーリーが進行します。

しかし実は、3人ともそれぞれに『欲しい』ものがあります。その欲望が三者三様で、自分の欲の為に起こした行動が複雑に交錯し、一人の死を招いてしまう

というストーリーの構成が非常に巧みです。

 

人間の欲望の深さと愚かさを読者に感じさせるような内容ですが、読み進めていくと、3人が持っている欲望は私たち読者にも当てはまる側面があると気づきます。

 

自分自身は3人の中で一番誰に似ているのかーを思わず考えてしまいました。

 

 

もう一度読むと人物たちの行動の意図が分かる

もう一度読み返すと、人物達の心情描写が非常に巧みであることに気づきます。

 

最初に読んだときは、コイツ(犯人の協力者)作中にそんな素振り全然なかったぞ!?と違和感を覚えました。

しかし、もう一度読み返してみると、様々な解釈ができる表現で文章が書かれているので、きちんと物語の整合性が取れているんですね。

 

おまけに、登場人物達の『欲しい』ものが分かった後だと、それぞれのセリフや行動の真意が透けて見え、受け取り方が全く違ったものになります。そういった表現も本書の魅力です。

 

個人的にはテルは許せない(´・ω・` )

最終的にテルだけが『欲しい』ものを手にしたことを考えると、心にもやもやが残ります。

 

 

人間の欲望をテーマにしたエンタメ小説

内容紹介やあらすじにはミステリと書かれていますが、久原の死に複雑なトリックなどが出てくるわけではありません。

『欲望』という人間の心に焦点を当てた作品のため、ミステリとしては軽い内容です。久原を殺した犯人は読み進めるうちに想像ができるでしょう。

 

しかし、それを補ってストーリー構成・人物たちの心情描写の秀逸さがあります。エンターテイメントとして、読者を引き込む一冊です。

 

最後に、本書で心に残った一文を引用します。

思いやり深いテルと会ってきたばかりだというのに、こんなに孤独で弱気になっていることに気づいて、由希子は戸惑う。どうしてなのかな、と考える。答えは簡単に分かってしまう。

自分に嫌気が差しているから。

-p225より

二度と帰らない男の愛を求める由希子の心情と孤独が伝わり、非常に物悲しい気持ちになりました。女性の心理描写が本当にうまい。

 

欲しい (集英社文庫)

欲しい (集英社文庫)